パイもケーキもないパフェ屋

パイもケーキもないパフェ屋に行ってきた。

この店は「ぴーぷるぴーぷ」
という札幌でも有名な店で、
パフェ好きなら一度は行くべき店とされてきた。

シメパフェの店にはそれなりに行っている僕でも
ここの店はまだ足を踏み入れていなかったけど、
ついに先日初来店。

店主:何名?初めて?待つよ?

僕:どのくらいかかりますか?

男:ぅわかんない

すでに禁を犯してしまったことを、
僕はまだ知らなかった。

この店には鉄の掟がいくつかある。

(鉄の掟1)”時間を気にするお客様(例えば、どのくらい時間がかかりますか、どのくらい待ちますかと聞かれるお客様)は、その時点でオーダーを受けません”

ジーザス。
いきなり失格やん。

店内はすでにほぼ満員。
唯一空いていたのはアイロン台のような狭っまいテーブルだけ。

ここに男がすでに3人座っている。そこに座れとのこと。
男4人で仲良く相席だ。楽しいのか、それ?
テーブルのメンバーのうちメガネが3人。
僕以外全員メガネやんけ。メガネ率高し。
この店、何かがおかしい。

アイロン台を囲んで向かい合う
友達メガネ同士2人(男)が
仲良くパフェをシェアしている。
綺麗に半分ずつ。
これがこの店のスタイルなのか?

この店、どうやら一度に全ての客の
パフェを作るシステムらしい。

20個くらいか?11番がどうやら僕の順番らしい。
あと何分かかるのだろう。nobody knows.

しかしこの質問は飲み込んでおこう。
同じ過ちを犯すわけにはいかない。

それにしても喉が渇いた。
「水が出されるのを当たり前だと思うなよ」
というメッセージなのか?
誰も水を飲んでいない。

パフェのアイスで水分を補給するシステムなのか?
しかしそのパフェが出てくるまでに
あと何分かかるのかはnobody knows.

効きすぎた暖房が喉の水分をジリジリと奪う。
”太陽は僕の敵”と歌ったのはコーネリアスだけど、
今の僕の敵はあの暖房だ。
間違いない。

(鉄の掟2)当店では、パフェスプーンをテーブルに置いた時点で正式にオーダーの確認とし、その時点よりキャンセルはできません。

なんだこれ?意味わかんないし。
IMG_1660

店主がオーダーを聞きききた。
注文をした刹那、おもむろに
グラスに入ったパフェスプーンが
目の前に置かれた。

ん?これがパフェスプーンか?
ということはもう後戻りできないということか?
そうなのか?

店内は満席。
メガネ席に着いてから
1時間くらい経っただろうか?

ついにパフェを待ちきれなくて
席を立つ女性が1人。

僕よりも前に入っていた人だから、
僕よりももっと待っているはずだ。

20代半ばくらいだろうか?
スマホをずっと気にしている。
きっと彼氏との約束でもあるのだろう。
ついに席を立ち、帰る旨を店主に告げる。

まだパフェは食べてないがキャンセルはできない。
店主が彼女の分のパフェを
作り始めているかどうかは定かではない。
でもそんなことは関係ない。キャンセルはできない。

なぜなら彼女のテーブルには
すでにパフェスプーンが置かれているのだから!

突如として店主の機嫌が悪くなる。

「書いてあったでしょ?ルール読んでないの?」

「スミマセン….」

謝る女性.

さらに手を緩めない店主

「ルールを守れないなら来て欲しくない」

公衆の面前で辱められ、
逃げるように店を後にする女性。

まだ見ぬパフェにスプーンを
通すことなく、支払いだけを済ませて。

最近では東京でもシメパフェの店ができたり、
マツコの番組でも紹介されたりしている
という話も聞く、札幌発のカルチャー、シメパフェ。

ここは、おしゃれなインスタ映えする、
シメパフェ全盛の時代に間逆を行く店。

いや待て。
パフェで締める店じゃなくて、
シメられるパフェ屋なのか?

ガッデム!
こっちが本当のシメパフェか!

わからない。
謎が多すぎて全く消化しきれないぜ。
ジーザス。

と、ここでアイロン台で相席している
メンバー、メガネ君が口を開く。
なんでもこの店に10年通っているらしい。

東京に住んでいるのに、
ちょいちょい出張で札幌に来ているらしく、
思わずこの店に来てしまうそうだ。

常連にもほどがあるぜ!
メガネ先輩と呼ばせてもらおう。

さらに話を聞くと、メガネ先輩は、
この店に合わせて札幌に出張に来ているいるらしい。

この店は、日、月、火が定休日で
週4日しか開いていない、
早すぎる働き方改革を実施している
先進的な店なのだ。

メガネ先輩は、月曜、火曜にクライアントから
仕事の依頼(東京から札幌に要出張)
を受けても断っているそうだ。

なぜなら、

「そんな日に札幌来たって、このパフェ屋閉まってるでしょ」

ジーザス。
出張の日ずらしてまでこの
パフェを食べに来ているのかよ!

(ってか絶対パフェ食いに札幌来てるっしょ、メガネ先輩!)

メガネ先輩に札幌出張を要請する際は、
日、月、火はやめとくことだ。
理由は聞いてはいけない。
それが礼儀というものだ。

そのあとも、この店のシステムやら
決まりやらを事細かに教えてくれた。
頼りになるぜ、メガネ先輩!

先輩に、僕が店の扉を開いた
直後に犯してしまった罪について話したところ、

「今日は機嫌が良かったけど、機嫌悪かったら帰されてますよ」

とのこと。

”時間を気にするお客様(例えば、どのくらい時間がかかりますか、どのくらい待ちますかと聞かれるお客様)は、その時点でオーダーを受けません”

という、あの鉄の掟は本当だったんだ!

いや、オーダーを受けないも何も、
店から追い出されるわけで、
今日メガネ席に相席させていただいたこと自体、
相当ラッキーだったのだ。
ツイテルツイテルと1万回言ったって足りないくらい。

でも、その鉄の掟を知ることが
できるのは席に座ってから!

ジーザス!
設計間違ってるよ!
導線おかしいって!

どこまでも初心者に優しくないお店。
しかしその敷居の高さが
敷居を超えた者を虜にする。

メガネ席に座ってから
80分くらい経っただろうか?
ついにクリームチーズパフェ登場。

IMG_1661

おしゃれなパフェをあざ笑うかのような、
”じゃないパフェ”登場。

インスタ映えなんて言葉を
使うのが恥ずかしくなるくらい
インスタ萎えするパフェ登場。

パフェっていうか、アイスの上に生クリーム乗ってて、
中にちょっとクリームチーズ入ってるだけやんけ!

実食。

ん?なんだ?この生クリーム。甘くない。
ん?なんだこのアイス?、甘すぎない。
クリームチーズのしょっぱさと
甘すぎないアイスのハーモニー。

これを日本では絶妙というのではないのか。

うまい。
うまいよ。
うまいです。

参った。。。
完敗だ。。。

リピート決定。
というか明日また行きたい。

次回は、必ずむせると噂の、
カカオパウダーがかかりすぎの
チョコパフェをオーダーすると決めている。

5回くらい通うまでは、初めて来た客として
扱われる(覚えてもらえない)ようなので、
次回も襟を正し、初心者として謙虚な気持ちで臨みたいと思う。

間違っても、うっかり

「どのくらいかかりますか?」

なんて言わないように。

同じ失敗を繰り返すくらいなら
私は貝になりたい。

次回は太宰の本でも持参して優雅な
待ち時間を楽しもうと思う。

店内暗くて字は読めないけれど。

この店、19:15分開店で
24時過ぎまで開いているのに
2回転しかしないという。

それもそのはずで、癖のある店主が
全部一人でやっているから。
All by himself。

パフェ作りはまあ、あなたがやるとして、
せめてパフェを運んだり、
レジ打ちはバイトにやらせればいいのに、
と誰もが思うはずなんだけど、
All by himselfのワンオペスタイル。

だから、会計するのにも
いちいち時間がかかる。

会計をお願いすると、

奥(厨房的などこか)から

「ちょっと待ってて。あと2つだから」

みたいな声が聞こえてきて、
客はレジの前で5分以上平気で待たされる。
立ったまま。

「あと2つって何だよ!」
「パフェ待ちかよ!」

って思ってしまったとしたら、
君はこの店の住人にはなれない。

この店では、ルールが絶対、
店主が絶対、彼こそが法律、
He is the Lawなのだ。

黙って待つのみ。
Shut up and waitなのだ。

もし90年代に、チボマットがこの店に来ていたら
さそがしご機嫌なラップを歌っていたに違いない。

店主は、

「うちは札幌で一番効率の悪い店」

と悪びれることなく言っていたけど、
じゃあ、なぜバイトを雇わない?

と思うのだけど、

メガネ先輩曰く、

「雇えねーんじゃね?」

と。

壁じゅうにベタベタと
いろんな張り紙がしてあるんだけど、

「マーガリン、ショートニングは使わない。バターのみ使用」
「保存料を使わない」
「生のバニラビーンズを使用」

などと原料への意識が高いことがうかがえる。

それらが原因だと思われるけど、
アイスがうまく固まらず、
店の開店が40分ほど遅れることもあるらしい。

あの甘くないクリームも、
甘すぎないアイスも、
おそらくは手作りで、
原料も相当こだわっていると思う。

それでいて、シメパフェの店で
食べるパフェの半額近い値段設定。

僕が食べたクリームチーズパフェは680円だ。

それでいて一日2回転しかしないってことは、
一日にパフェ50個程度しか作れない計算になる。

(松屋に研修行ってこい!)

おそらく原価率が異常に
高いんじゃないだろうか?

飲食では原価率は3割
とか言われているけど、
この店の原価率は5割とか6割
とかいっている可能性は十分あるなと。

だから、人を雇えないんじゃないかと。

だから、一斉にパフェを作り出し、全て自分で運び、
1回転目が全て終わったら、全部の食器類を自分で洗い、
そのあとやっと2回転目が始まるという、
信じられないほどアナログで
無駄しかないワンオペっぷり。

(松屋でワンオペ学んでこいや!)

しかし、このパフェのお味。
全ての無駄はこのためにあったのか!

いや、それは必ず別の問題のような気がするけど、
この味を提供されたら黙って食べるしかない。
Shut up and eatだ。

ちょっとというか、だいぶ
パフェの概念が変わってしまった。

巷のシメパフェ屋のあの
甘すぎるパフェに戻れるだろうか?

本当は、おしゃれなだけで、
インスタ映えするだけで、
甘すぎるだけで、
誤魔化されているんじゃないか?

本当のパフェとは、何時間待たされても、
アイロン台のようなテーブルに男4人(全員メガネ)
で理不尽に相席を強要されても、インスタ萎えしても、
綺麗じゃなくても、あんまり甘くなくても、
確かに客を満足させ、必ずまた来たいと
思わせるものなんじゃないだろうか?

ふと頭に流れてきたのは『リンダリンダ』だった。

この店のパフェには、確かに
写真には映らない美しさががあるから。

今日の一曲はこちら。


Cibo Matto – 『Birthday Cake』

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